京都市にタワーマンションが無い理由

スポンサー リンク

今回は京都特有の物件の特徴を紹介します。

大阪や神戸の物件と京都の物件を見比べていると、あることに気が付きます。

それは京都には「タワーマンションが無い」ということです。

上の写真は京都駅から見た京都市の北部の景色です。京都タワー以外の高層建築物は全く見当たりません。なぜでしょうか?

しかし、それも良く考えてみると当然のこと。

京都らしい町家の街並みの中に高層の近代建築がそびえ立っていては、せっかくの古都の雰囲気も台無しとなり、訪れた観光客もガッカリしてしまいます。

振り返ってみると、戦後、日本の多くの都市は都市開発の名のもと、その古き良き街並みが近代建築に無秩序に置き換わり、その代償として、日本古来の景観は大きく損なわれていきました。

これに対し京都市は、近代化を進めながらも、無秩序に近代デザインの建築物が乱立しないように高さやデザインを規制し、日本が世界に誇る京都らしい景観を保全することにしました。


京都市の景観条例

その京都市が推し進めてきた景観保全の経緯と詳細を少し説明します。

京都市は1972(昭和 47)年「市街地景観条例」を制定し、美観地区,特別保存修景地区等を指定しました。

1996(平成 8)年には景観規制,高さ規制等の強化が打ち出されました。その後、1999(平成 11)年には「京都市基本構想」策定されました。

そして、2007年に建物の高さ規制強化を中心とした「新景観、政策」を導入しました。
この政策はこれまでにない厳しい景観条例であり、この条例により建物の高さ規制が最大でも31mに抑えられました。
31mとは階数に換算すると10階建て相当の高さになり、これより高い建物は建築することができません。当然、タワーマンションもこの規制に抵触するため建築できないのです。

美しい街並みを目指して

ヨーロッパの都市に見られる都市建築の美観とは、建物の高さや様式が揃った美しさとも言えます。これに対して日本や中国などの東アジアの都市は雑然と多種多様な建築が入り交じり混沌とした情景が特徴でもあります。

京都市は日本古来の建築物が最も多く残る都市であり、これら古い建築物を主役とし、都市の景観の統一化を図る計画を打ち出したのです。これはヨーロッパの都市景観保全に近い考え方です。

この考え方に基づくと、当然、近代的なタワーマンションの建築はできないことになります。
上の写真は御池通に面したマンションです。高さの揃ったマンションがきれいに並んでいます。御池通は、京都市の美しい通りのひとつであり、京都市の美観への取り組みが特徴的に表れている通りのひとつです。

ただし、この規制には課題もあり、高さ制限により1棟あたりの戸数が減少するため、戸数当たりの価格は規制前のマンションに比べて高くなります。上記、御池通のマンションなどは、その街並みの美しさに人気が高いため、かなりの高値で取引がおこなわれています。

建築物のデザインに関する規制

京都の景観を保全するもうひとつの取り組みとしてマンションのデザインに関しても規制が設けられました。

通りに面した一階部分への軒庇(ひさし)の設置や、20mを超える3階以上の外壁面のセットバックなどが義務付けられました。屋根も平坦な屋根ではなく、切り妻屋根など、傾斜する切り屋根とし、周辺の町家に違和感なく溶け込むデザインが求められます。

景観条例

そして、この条例では屋外広告物も禁止されました。それまでビルの屋上や通りに面した場所に掲げられていた看板やネオンサインは撤去されました。

コンビニやファーストフードの看板も景観を損ねないよう高さを制限したり、色も茶色など地味な色合いの看板に置き換えられています。

下の写真は京都ならではのコンビニ看板です。和風の門の奥にセブンイレブンの店舗があります。

また、下の写真はファミリーマートの店舗です。写真では少し分かりにくいですが、通常よりも彩度を落としたデザインになっています。

昔は四条通を歩くと各ビルに看板があったため、どのビルにどんなテナントが入っているか一目瞭然でしたが、今は看板が無いためどのビルにどんなテナントが入っているか分かりにくくなっています。

眺望を損なう建築物の規制

また、古くから守り引き継がれてきた財産である京都の眺望景観や借景の保全のため「眺望景観創生条例」が全国に先駆けて制定されました。

視点場

京都の優れた眺望を見ることができる地点を視点場と定義し、視点場からの眺望を損なう建造物について高さや色・デザインが規制の対象となりました。

保全対象となる眺望は世界遺産となる寺社仏閣や五山の送り火の山々、賀茂川から東山や北山の眺望など38カ所が含まれます。これにより、大文字山などの眺望はその優れた雰囲気を保つ事ができるのです。

終わりに

京都は古くから人が多く訪れる都市として価値、景観に重きを置いてきた都市であり、景観を守ろうとする意識は他の都市より高かったと言えます。

そのため、新しい高層建築物を建てる度に議論を繰り返してきました。今や京都のシンボルとも言える京都駅ビルやホテルオークラ(京都ホテル)でさえその対象です。そしてその保全の想いを形に表したのが、まさに景観条例です。

この条例による厳しい建築規制と、それを守ってきた市民の努力により京都は近代化を進めながらも近代建築と伝統建築が調和した世界有数の美しい景観を保つことができました。

今、我々が目にできるのは、こうして守られてきた日本の希少な景観であり、これからも保全活動を続け、この美しい景観を維持していく必要があります。

皆さんも一度、京都を訪れて、他の都市とは少し違うこの調和美をご覧になってください。

当サイトでは賃貸情報データをグラフとして可視化しています。過去のデータ詳細は以下を参照ください。